さまざまな旅

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虎の住む森

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最後のインドから6年近く経った。予定では、サドゥのあとはひたすらデカン高原を旅するはずだったが、今はまるで異なる場所を歩いている。6年前、まさか自分が近所の多摩川にひたすら通い詰めることになるとは想像もしなかった。人生は本当に分からない。

ある人と話していて、「あのままデカン高原をずっと旅していたら、今頃、虎に食べられていたかもしれないね」と言われて、冗談ではなく本当にそうかもしれないと思ってしまった。森を歩くたびに護衛を付けるわけにはいかないから、謎の壁画を探し求めて案内人と二人でふらふらと森をさまよい歩けば、たしかに虎に遭遇する危険は十分にあった。子供の頃から、虎や熊に追われる夢ばかり見てきて、その影響か、インドの最後のほうでは虎のことばっかり考え、特別な目的もないのに、わざわざ動物保護区まで虎を見に行ったぐらいだから、いつか虎を招き寄せるようなことがあっても不思議ではない。

たしか一年前ぐらいにも書いたが、「熊嵐」という小説をいまだにときどき読んでいる。戦前の北海道で、六人もの人が熊に殺された実話をもとにしたものだが、闇にうごめく熊の気配がどうしようもなく恐ろしい。そして「熊嵐」は、夜の多摩川歩きのバイブルのようになっていまった。別に熊に襲われたいわけでもなんでもないのだが、この小説を読めば、本当の夜とは、そして本当の森とはこういうものだ、ということを痛感できる。

話が横道に逸れてしまった、というより、何を書こうとしたのかも忘れてしまったが、とりあえず上の写真について。デカン高原中央部パチマリの森にある先住民の聖地となっている洞窟。この辺りにももちろん虎はいるだろう。そして、ほかにはヒョウもいるし、熊もいる。数年前には、ほかの洞窟で、早朝、人が熊に襲われる事件も発生したという。

(追記)
「熊嵐」について書いた記事へのリンク
http://chaichai.moe-nifty.com/chaichaiblog/2012/01/post-f8b0.html

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謎の古代壁画

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前回に続いて今回もデカン高原の壁画紹介。ちなみに、この壁画はパチマリという場所にある。パチマリは、以前、ホームページのほうで「デカン高原太古の森パチマリ」として紹介しているが、今回紹介している壁画は、このパチマリを数年後に再訪してさらに奥深くの森を歩いて撮影したときのものだ。

さて、今回の壁画も謎に満ちている。中心の蛮刀を手にして人物は、頭の形からしてたぶん女性だろう。左のダンスしている二人も女性。そして、右下、矢をつがえている身体の細長いものは、これは人間というよりイタチのような動物を擬人化したものだろうか。

もうひとつ気になるのは、蛮刀を手にした人物の下で倒れたような形で描かれている二人の人物。身体つきが普通の人とはちょっと違うような気がする。

パチマリ壁画の紹介は今後もしばらく続けていって、自分なりの謎解きを書いてみたいと思っているが、それにしても、どうしてパチマリの壁画にこれほど魅了されるのか。5年前、サドゥの取材が一段落ついたとき、次はデカン高原、そして森を歩いて未発見の壁画を探してやろうと密かに考えていた。その夢は残念ながら実現できていないし、今後もしばらくは難しいかもしれない。それでも、いつかはそんなことをしたいと思っている自分が今でもどこかにいる。

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首狩りの壁画

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5年前にインドのデカン高原でこの壁画を撮ったときは、これは世紀の大発見かと思ったが、その後、どこにも発表できずにずるずると月日が経ってしまった。

上の壁画はまさしく首狩りの様子を描いたものだ。案内してくれた人の話では、一万年は下らないと言っていたが、5年前の時点で誰も調査をしていなかったので、実際のところはよく分からない。一万年前のものにしては絵が鮮明すぎるような気もするが、その力強い描写には、得体の知れない力がみなぎっているようだった。

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聖地の条件2 -オルチャ-

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「聖地の条件」の今日は二回目。聖地周辺の地図を調査しながら、やっぱりここは聖地だ、と勝手に納得するただのお遊びである。ところで、最近、パワースポットという言葉が流行りだが、これは聖地と同義だと思っている。聖地という言葉自体が造語のようなものなので、本当のところどちらでも構わない。むしろパワースポットのほうが意味としては分かりやすい。ちなみにヒンドゥーだとティールタという言葉が聖地にあたるが、意味は「浅瀬」。浅瀬がどうしてパワースポットになるのだろう…。なんとなく分かるような気がするが、結論を急ぐ必要はないので、もう少しいろいろ考えてみたい。

さて今回はオルチャ。デリー、アグラからさらに少し南に下ったデカン高原の入り口。廃墟宮殿や墓の類が丘陵地帯に点在していてとても美しい。一部の寺がインド人にとってのお参りどころとなっているが、巡礼地というほどの場所ではない。とはいえ、巡礼者の態度や周囲の風景を眺めながら、でもやっぱりここには何かがあるんじゃないかと思っていて、今回、はじめてグーグルマップを見てみた。


大きな地図で見る

流れている川はベトワ川。地図上、下から上へと流れ、ヤムナーと合流して、最後はガンガーとなってベンガル湾へと注いでいる。

オルチャの町は、湾曲する川の内側に作られている。ヴァラナシとは反対だが、ヴァラナシが例外なのであって、オルチャはノーマルな聖地の形だ。そして川の中に中州が見え、ここに宮殿が建っている。中州は浅瀬に通じているからここは聖地としての条件を満たしているかと思われるが、まだ弱い。もう少し周辺部を見てみたい。それが下の地図。


大きな地図で見る

(Aの場所がオルチャ)

地図を拡大していろいろ眺めてもらったほうがわかりやすいが、この周辺のベトワ川はかなりややこしい状態になっている。少し上流にダムがあり、その直後ぐらいから川は二つに分かれ、オルチャより下流で再び合流する。しかし、そのあいだにも、幾筋も流れがあり、複雑怪奇な状態になっている。中州にある宮殿については、考え方によっては、中州の中の中洲に建っている、という考えも出来るだろう。

オルチャを訪れたのは雨季だった。緑の絨毯にまず感動したが、写真の通り、川の水量はかなりのものになっていた。町外れに橋があり、渡ろうとして、そこにいた警官に、「帰ってこれなくなるぞ!」と、大声で止められた。大袈裟な、と思ったが、次に日にはたしかに水没していた。

そして今分かったことだが、あの橋は巨大な中洲へ通じるものであった。ということは、ここら辺の橋が全部水没すると、そこは完全に陸の孤島となってしまう。中洲を詳細に眺めてみると、村はいくつかあるようだが、あとはジャングルと荒野ばかりが広がる不毛の土地。オルチャの前を流れる河はたしかに三途の川ということになるだろう。

勝手な解釈だが、だんだんオルチャの姿が見えてきた。オルチャは平和な聖地というより特別な荒野なんだと思う。オルチャに残る廃墟宮殿や墓などの遺跡はヒンドゥー系の王によって建てられたものだが、なぜわざわざこんな僻地に拠点を置いたかが気になっていた。そして、各遺跡は、いかにも計算されたような美しさで丘陵地帯の各所に配置されている。そうした実景と地図を重ね合わせていくと、やはり、これを作った人は、オルチャという土地に特別な感情を持っていたのではないかと思われてくる。はっきり言ってしまえば、風景とか風情とか(だけ)に魅せられてしまったのだと思う。

ただ、実際は氾濫原に近すぎて、とても発展しそうもない土地柄だから、立派な建造物もいずれ廃墟になる運命だったのかもしれない。逆に言えば、旅行者にとっては最果て感が強くてとてもいいところ。そして聖地としても、ささやかながら魅力がある。そういえば、ひとつの廃墟宮殿の中にサドゥが何人かいて、楽器を持って、掛け合いで歌を歌っていた。

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オルチャはHPのほうでも6ページにわたって紹介しています。
http://chaichai.campur.com/architecture/orchha01.html

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丘の上の村より

mandu9998このあいだの夏のインド旅行で最後に訪れたのがマンドゥー。デカン高原やや西よりの台地の上にある村で、イスラムの遺跡が点在しているが、風景はもっと素晴らしい。特に雨季は緑が鮮やかで、特に夕暮れなど、夢のような景色が丘に沿って続いている。そんな中を歩いていると、静かに葉っぱを吸っている男が二人。僕を見つけると、「どう?一緒に吸わないか」と誘ってくる。「まだ写真を撮るから」と遠慮したが、うち一人がなかなか絵になるので写真を撮らせてもらった。彼は服装は普通だが、一応サドゥーなのだという。ここが気に入って住み着いているらしい。まあ、聖地でもないから袈裟衣も必要ないということか。誰もが、ぶらっと自然に生きていける空気がこの小さな村にはただよっている。先住民の比率もかなり多いし、いろんな人々が雑居する中で、好きなようにやれば、といった空気が出来上がったのかな、と思う。しかも自然は神々しいまでに美しく雄大、ちまちま働く必要もなさそうだ。インドでは珍しく酒飲みが多い村だが、確かに酒でも飲むなり葉っぱでも吸うなりして、夕暮れをぼ~っと過ごすのがよく似合っている。一瞬、夕暮れの中を走り回って写真を撮っている自分がバカのように思えたが、まあそんなこともないかとあとで思い直した。夕暮れを堪能したのは一緒なわけだし…、写真を見てまた楽しめる。

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雨上がりの川

orcha05aa今日は台風が近づいているようで外は激しい雨。気温も下がり、気持ちいい。インドでも、5月、6月は猛烈に暑いが、雨が降ると突然気温が下がって、晩夏のような雰囲気になる。このあいだ、デカン高原を巡ったときもそうだった。
写真はオルチャ近くの平原を流れるべトワ川。雨上がりの空に太陽が顔を見せ、その光に照らされた川の流れが印象的だった。写真で見るように、かなり増水していて、対岸に渡る橋は水の中に沈んでいる。もしかすると、雨季のあいだじゅう、対岸との行き来は出来ないのかもしれない。
オルチャに滞在中、川遊びをしていた子供が流され行方不明になったと聞いた。でも、それを話した人も含めて村はどこまでも静かで、まるで何事もなかったかのようだ。モンスーンがやってくれば、そんなことは当たり前、といわんばかりで、ときどき、そんな国にいることに恐ろしさを感じることもある。
でも、…恐ろしいと思うからこそ、一時の平穏が、またひときわ穏やかな時間として感じられるのだろうな。そうなことを思いながら、川を眺めていたら、また黒雲がやってきて、激しい雨になった。

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丘の時間

other29aaancient51aa今日もオルチャの丘の写真を二枚アップします。左の写真は、雨を含んだ夏の雲が印象的な午後の空。だんだんに風が湿り気をおびて、そのうちざっと降り出す前あたりの時間も結構良いものだ。
右の写真は、真っ赤な夕暮れがやがて終わり、闇の中に沈んでいく、静かなひと時…。右の建物は今も寺院として生きているので、何本かの旗が風になびいている。ときどき巡礼がやってきて、鐘を打ち鳴らすのを遠くで聞くのはとても風情がある。インドの風情なんてあまり日本では聞かないけど、じつはすごく胸を揺さぶられるものがあり、強い予感に満ち満ちている。
夕暮れの写真を撮り終わり、丘を下っていく途中でまた奇妙なものに出会った。夜の帳が下りつつある道の端で堂々とうんこをするおばさんたち。結構たくさんいて心苦しいが、道は一本しかないので、そのまま歩くしかなかった。遠くからは女の子たちも水がめを持って歩いてきていたので、彼女たちの目的も同じだろうか。そのへんで用を足すのはインドの農村部では当たり前のことで、実は驚くほどでもないが、デカン高原北部から東インドはちょっと露骨すぎて、もう少し隠れてできないものかなあ、と思ってしまう。でもまあ、僕がもっとも心惹かれている地域と重なってしまうのがなんとも微妙な気分…。

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魅惑の丘

orcha04aaorcha03aa前回に続いてオルチャの話題を一つ。前回紹介した建物はじつは宮殿ではなく寺院だそうだ。この寺院から裏手の丘陵を上り下りしながら20分も歩くとチャトリ(墓園)建築群に到着するのだが、そこにいたる道がとても印象的で、ここがインドであることを忘れてしまう。例えるなら、まるでスコットランドかアイルランドの寂しい丘を歩いているような不思議な気分、雨のあとの、ちょっと肌寒い風もとても気持ちいい。人影はあまりなく、ときどき牛や水牛が道を横切っていく。まるで童話の世界に迷い込んだようだ。
丘の上から眺める建物のたたずまいもじつに良い。空の様子に応じて次々と印象を変えていくのは別に当たり前のことではなく、建物自体の神秘的な魅力がなければ印象的なものにはならない。その点、オルチャの建物はどれをとってみても、駄作というものはまったくないし、建物の配置の、バランスの良さが際立っている。まったく伝えられていないようだが、これを作った建築家はすごいセンスの持ち主だったんだろうな。
オルチャを見て思い出したのが、スペインのセゴビアという町。谷をはさんだ丘から眺めると、ディズニーランドのモデルになったという城から、宮殿、そして教会にいたる眺めがとても美しい。この丘の眺めに魅了され、夜に真っ暗な丘を登った記憶があるが、オルチャの美しさはセゴビアの上をいくかもしれない。まあ、どちらが良いかはともかく、二つの遠く離れた街には、どこか同じような美意識が流れていて、それが不思議な気がする。もしかすると、オルチャはインドでもっとも西洋的な美しさを持った街なのかもしれないが、オルチャは純粋なヒンドゥーの街でもあり、建設当時は西洋人の影もないようだから、そのあたりのことは謎である。
ちなみに左の写真、手前の三つの建物が寺院(そのうち一番奥が前回の建物)、後方に見える大建築群が宮殿で、おもに二つの建物からなっている。写真には見えないが、この地点から右遠方にはチャトリ(墓園)の建築群、背後にも、やはり巨大な寺院が一つそびえている。ここは何度歩いても素晴らしい。

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モンスーンミステリー

orcha01ss明日はお盆、ということで、ガンジス川を離れてこんな話題を…。
写真はデカン高原北部の村オルチャ。風光明媚な村と聞いて出かけたのだが、目の前に現れた巨大な宮殿はまさにお化け屋敷。観光客がほとんどいない宮殿は物凄く不気味で、そして美しい。何年か前、スペインとポルトガルの冬を三ヶ月歩いて、不気味な美しさには慣れていたつもりだったが、オルチャは、スペインとポルトガルのどの町よりも印象的だ。とはいえ、これが乾季であれば、それほどでもなかったのかもしれない。オルチャの凄みは、モンスーンの空に立ち込める黒雲の影響によるところが大きい。
オルチャには、写真以外にもいくつも巨大な宮殿があって、それがほとんど補修もされずに放置されている。宮殿内部を歩いていると、通路がすっぽり崩れ落ちていたりと、危険な箇所がいっぱいある。建物内部に通じる細い道は同じ規則の繰り返しとなっている場合が多いから、自分がどこを歩いているのかだんだん分からなくなる。しかも空には立ち込めた雨雲。そして語り継がれる宮殿の悲惨な最期、などなど。ホラー映画のロケにうってつけだが、ちょっと怖すぎるからどうだろう?
それにしても、見れば見るほど恐ろしい。ドラキュラの館みたいだ。

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