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もう15年以上前になるが、ネパールの民族に関する一冊の本を買った。
「ネパールの人々」(D・B・ビスタ著・田村真知子訳)
研究書なので高い。定価はなんと8300円。しかし情報量はすごくて、聞いたことのないような民族のことまで詳細に説明してある。その中で、当時からすごく気になったのが、本記事の表題、ダヌワール、マジ、ダライ。三つの民族が一緒になって紹介されている。その中の一文がとても印象的だった。
生来、非常に用心深く偏狭な人々で、野獣はまったく恐れないが、見知らぬ人間を極度に嫌う。
さらにこんな一文もある。
深い峡谷や谷に住み、流れに沿ってずっと上流まで旅をする。
ネパールの谷というのは人が住むにはあまりに険しく、またマラリア蚊が発生するので、たいていの村は山の中腹や尾根の上にある。そんな状況なので、「流れに沿ってずっと上流まで旅する」というのは普通ではない。それにしても、「野獣はまったく恐れないが」というのは、いったいどの程度の話なのか。熊ぐらいなら問題なし、ということか。「非常に頑強な身体を持っている」と書かれているから、本当にそうなのかもしれない。
長いあいだネパールの山村を旅したが、ダヌワール、マジ、ダライのどの民族とも接触したという記憶はない。というか、ガイドからもそれらの名前も聞いたことがなく、たぶん、彼らの村に泊まったことはないと思う。しかし、一度や二度は彼らを目にしたことはあるかもしれない。思い出すのは、とある東ネパールの辺境を旅していたときのこと。
そこは街道とは遠く離れたただの山村で、ほとんどの村はタマン族。ネパールの中でも寒村といった風情の所ばかりで、ともかくないもない。当然電気もなく、道中、チャイ屋もなく、水もない。昼飯を調達するのも一苦労。山村でときどき見かける野外共同トイレもない。一日、二日ならともかくこれが10日間続くとちょっとつらい気分になる。ガイドはいるから泊まるところは確保できるが、どの村で泊まってもなぜか飯がまずい。これが一番こたえた。
そんな日々のなか、どこかの村に到着して付近をぶらついていたら、魚をいっぱい手にした男と出会った。といっても、このときばかりは、男と出会ったというより、魚と出会ったといったほうがいい。大型の、鮎のような川魚。ともかく何匹か売ってもらって、泊まっていた民家に持ち帰り、魚のカレー炒めにしてもらった。味は感動的。一生忘れない、と思ったが、魚の印象が強すぎて、魚を売ってくれた男の顔はさっぱり思い出せない。ただ今から思うに、魚を売ってくれたのは、マジ族の男ではなかっただろうか。
インドもそうだが、一般人はまず魚釣りなどはしないし、もちろん漁労に従事することはない。従事しているのはそういうカーストか特定の民族だけである。目の前に魚が泳いでいても、捕まえることなくまずい飯を食うのがインド文化。なので、男はやはりマジ族だと思う。ちなみに、ネパールの民家やロッジに泊まって魚を食べたのはこれが最初で最後。ただし、その後の旅で、道中(そこはちょっとした街道だった)、掘っ立て小屋で営業している焼き魚屋台で焼いた魚を食べる機会が何度かあった。焼き魚屋台もマジ族だったかもしれない。
……と、夕方にここまで書いて所用でいったん外出、さきほど帰宅した。
思いがけず文が長くなってしまって、どう締めくくればいいのか悩む。
これを書き始めたきっかけは、「野獣はまったく恐れないが」という文章がおもしろく、そんな民族に会ってみたいな、と思った、というだけの話。
ちなみに上の写真の少女、大きな籠を手にして突っ立っていた。服装が変わっている。それと、この写真は全部で十数枚撮った写真の最後から三番目。最初は、ひどくこちらを警戒していたが、だんだん表情が和らいできた。もしかすると、マジ族の少女かな。川が近かった記憶がある。次回ネパールを歩くときは、川に近い村からいろいろ探してみたい。魚も食べられるしね。
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