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風水について その二(虫の宿)

風水について、今日はある具体的な経験を書いてみる。僕は以前、ある山小屋で長いあいだ働いていたが、そこでひどい目にあったことがある。

その山小屋は正確には国民宿舎で、標高1500メートルの山の中にあった。もう営業を中止したから名前を出してもいいのかもしれないが…。とりあえず匿名にする。なかなかいいところで山小屋の周囲は深い森におおわれ、ちょっと屋久島の原生林を思わせる。直径2メートル以上の太い幹を持つ大木がいくつもあり、神秘的な雰囲気もある。

山小屋の客室は二十三部屋、細長い造りで、長い廊下の向こうにまで部屋が続いている。建物の長さは多分、50メートルはあるだろうか。場所を考えれば立派な建物だったが、虫が多いのが欠点だった。とくに蛾が多いが、僕はとくに嫌いではない。それよりも問題なのが、かまど馬である。

かまど馬、知っていますか?別名、便所こおろぎともいう。簡単に説明すると、ぷりっとした胴体に虎の縞縞が入っている。色は黒に近く、足が異様に長い。とくに長い後ろ足でぴょんぴょん跳ねるのがなんともいえず不気味だ。しかも、尻に角を持っている。

かまど馬にしろ蛾にしろ、そういった虫が大量にいるのは、山小屋近辺が非常に湿気ていたからだ。一階の奥まったいくつかの部屋がとくにひどかった。一番奥とその手前の部屋には、大きな染みが壁に広がっていてすごかった。幽霊が出るという話もあった。

その後、それらの部屋は形だけ改装し、きれいにはなった。それでちょっと安心したのが間違いの始まりだったのだ。ある年、僕は夏のあいだだけ、ということで、奥から二番目の部屋を使うことになった。山小屋で働き始めて7年目のシーズンである。

異変はその部屋に入って十日ほどたった頃から始まった。なんとなく体が疲れやすい。おかしいな、と思いつつも仕事は休めなかった。ちょうど忙しい時期であったし、僕はいくつかの仕事の責任者でもあった。ま、やり慣れている仕事なので何とかなるか、と思っていたが、それが裏目に出た。それはちょうどお盆が終わり、ちょっと一息ついたかな、というある晩にやってきた。胃痛である。しかも、異常な痛みだ。すぐに緊急に救急車を呼んでそのまま入院、病名は十二指腸潰瘍、すでに小さな穴が開いてしまい、すぐに手術となった。

入院生活は約三週間、その後一週間ほど休んで山小屋に戻ったが、災難だった。ま、それはともかく、病気の原因は何だったのか?理由は一つではないにしろ、僕にはちょっと思い当たることがあった。あの部屋のことだ。

それから僕は次の年も含めて山小屋の周囲を何度も歩き回った。そのときにちょっと風水の本も読んだりしたのが、興味を持つきっかけになった。それでいろいろ分かってきたことがある。そのうち、もっとも問題だったのは水だ。どうやら、あの部屋の下には水が流れているようなのだ。あるいは、地面中が湿っているといってもいい。。ちょうど裏手には、ほとんどあるかないかの細い谷があり、建物の手前数十メートルで消滅していた。でも、水は完全に消えたわけではなく、部屋の下をじわりじわりと流れているようだった。

風水ではとくに水に気を配る。だからトイレはどの方向、風呂はどの方向、あるいは池を作るのは危険とか、川の近くに住むのはどうだ、と、やたら水にうるさい。水は良くも悪くも風水の基本だ。そんな観点から見て、いや見なくても分かることかもしれないが、僕が泊まっていた部屋は最低だった。

水(川)はしばしば龍に例えられるが、僕はまるで龍の尻尾の上で暮らしていたようなものだ。多分、龍は山小屋が出来る前はのんびりと地中を流れていたのが、そこに変や建物を作られ地面に押し込められた。その怨念が、かまど馬になって表れたか、…あるいは幽霊になった。僕はまあ、呪われたということだろう。

建築のことはよく分からないが、これは完全に設計ミスである。香港ではビル一つ作るのにいちいち風水師を呼んで作るというのに、この自然のパワーあふれる山の中で、風水的環境をまったく無視して作った結果がこれであった。これはうまくいかない。その結果、この山小屋は二年前に閉鎖になり、今は取り壊しを待っている(それでも三十年以上続いたが…)。

しかしである。この山小屋はある意味ではすばらしいところでもあった。僕は一度はひどい目にあってしまったが、じつはそこに8シーズン暮らしていたのだ。僕はここが好きだった。いっぱい虫がいて、すべてが自然にあふれている。そういえば、風呂場ではときどき二十センチもあるナメクジを見た。誰かがそれに塩をまいて殺してしまったが、僕は何か、すごい悪いことをしたな、と感じていた。これは多分、森の精霊に違いない、と。以来、ナメクジを殺すことを僕は料理長の権限で禁じることにした(そういえば、あのナメクジ、「風の谷のナウシカ」の「オーム」に似ていたな…)。

この山小屋で長く暮らしたのは僕だけではなかった。知っているだけでもほかに7人。みんな、給料が安いだの、社員がどうだの、といいながらも春になると自然とこの山小屋に集まってきた。それに意外だが、お客さんにもこの山小屋のファンがいた。僕らが「虫さん」と読んでいた常連の夫婦はとくにそうだった。彼らは虫取りが趣味だったが、彼らがいうには、「建物内でこんなに虫がとれる山小屋は初めてだ」まあ、当然である。日本ではありえない。

…いつのまにか風水の話から虫の話へと転んでいったが、でも、風水というのはそんなもろもろの環境すべてを含んでいるのではないだろうか?すべては風水ということかもしれない。ところで、そういう意味から、もう一つ書いておきたいのは、あの山小屋の雰囲気だった。風水的にいえば、そこに住む人間はその家相に影響されるわけだが、僕の経験でもまったくそのとおりだった。

あの山小屋では、いつもどこかで虫がうろうろしていたり、あるいは蛾やナメクジがじっとどこかにはいつくばっていたが、そういうのは人間にもかなり影響するものだ。そういえば、あの山小屋で働いている人たちは本当によく寝ていた。みんな寝病ではないかと思ったものだが、あれは考えてみれば、ただ単に、虫化したということだったのだ。でも、虫の生活というのは、それはそれでいいものである。まるで、繭に包まれた蚕のようなものだ。あるいは、自然という母なる子宮のなかで安心して暮らしているようなものである。悪いわけがない。

さて、きりがないのでそろそろ終わりにしよう。「風水について その二」で早くも脱線気味である。それから、…山小屋での日々は、また別の機会に書いてみるつもりです。

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