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「旅行者」について

このあいだ、イラクにおける日本人人質殺害事件に関することで、どこのサイトだったか忘れたが、「最近、バックパッカ-の評判、悪いね」といった趣旨の発言があった。その前にも、ボランティアや報道関係で人質事件があり、なんだ最近のバックパッカ-は、というような批判があったのだろうか?もちろん、5人のほうは正確にはバックパッカ-ではないわけだが・・・。

ところで、僕はこれまで、自分をバックパッカ-だと思ったこともなければ、そう名乗ったこともない。旅行を始めたのは1990年だったから、そんな言葉はまだなかったわけだ。当時はそのまま「旅行者」と言っていた記憶がある。だから、僕も文章の中で、よほどの意図がない限り、「旅行者」という言葉を使うことにしている。

とはいえ、実際に旅行に出れば、多かれ少なかれ「バックパッカ-」と名乗る人々との付き合いも出てくる。「バックパッカ-」も「旅行者」も、ただの言葉の違いではないか、といわれれば、確かにそうかもしれない。同じような場所を訪れ、同じような宿に泊まるのなら、たいした違いはない。

まあ、どっちでもいいか、と思っていた矢先に、冒頭の「最近、バックパッカ-の評判、悪いね」という言葉を聞き、またそれにこだわってしまった。というのは、「バックパッカ-」はともかく、「旅行者」なんて、もともと評判がいいわけないじゃないか、と思ったからだ。

1991年だったか、2回目の旅行でバンコックに立ち寄ったとき、僕はカオサンを避け、中華街に泊まっていた。あの頃のカオサンはまだまだ素朴だったが、それでも僕にはあわなかった。しかし、かといって中華街がよかったわけではない。今はほとんど消えてしまったが、あの頃の中華街には日本人専門宿みたいなホテルがいくつかあり、多くの旅行者がうろうろしていた。しかし、その雰囲気は異様だった。

この界隈に住んでいたのは間違いなく男だった(当時、アジアでは、まだまだ女性の旅行者は少なかった)。その一部の人たちはもう何ヶ月もこの界隈に住み続け、毎日売春宿へと通い続けていた。彼らはある意味、もはや旅行者ですらなかった。向こうも恥ずかしいのか、挨拶もしない。もっとも挨拶されたところでこちらも困るだけだ。

一方でインド帰りなどと呼ばれる人もいて、もう何年も日本へ帰っていない、というような話を聞いて、複雑な気分になった。汚らしい食堂で古いマンガを読みながら、「いつかは日本に帰らないといけないのか」と溜息をつく彼らの姿を見ながら、僕もゆくゆくはあんなふうになるのか、と思ったら、ちょっと怖くなったのを思い出す。僕が写真をはじめたのも、彼らと一線を引きたい、という思いからだったかもしれない。それはともかく、ここは人生の場末だ、と僕は強く感じたものだ。

インドで出会った旅行者の多くも、どこか偏屈で天邪鬼な人が多かったような気がする。日本社会に疑問を感じ、ドロップアウトして旅しているような人もいた。まともに日本で暮らせるようなら、何も好き好んで外国を放浪する必要もないのではないだろうか。だから旅行者の評判といえば、はなからすこぶる悪かった。

僕自身、いいかげんなのは旅行者の特権だというぐらいに思ってきた。また、旅の恥はかきすて、というのは非常に実感がある。僕は旅行記というものを書かないが、それも結局、恥ずかしいからだと思う。書いて人に見せるような立派な旅ではないと・・・。

現在、インターネットの世界では驚くほど多くの旅行記が存在している。僕はそういったサイトをじつはほとんど読んでいないが、なかには一日一日のことを非常に詳細に書いたものがあり、違う意味で感心してしまう。それに比べれば、昔の旅行者はまるで逃げ隠れするように旅行していたような人も多く、もっといいかげんだった。当時はインターネットカフェなんかもなかったし、とくにインドあたりで沈没しているような旅行者は、郵便局ひとつ行くのも億劫なほどだらしがなかった。その分、浮世のことはみんな忘れて、インドのゆったりとした時間に浸かりきっていたのかもしれない。

「旅行者」と「バックパッカ-」、どちらがどうと言いたいわけではない。それぞれが時代の影響を受け、必然的に生まれてきたものだと思う。ただ、僕はその過渡期を歩いてきた人間として、なんとなく複雑な感情を抱いている、というだけのことだ。

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(補足)
3年前、インドとパキスタンの緊張が高まったとき、僕は国境にほど近いラダックを旅していた。政府からは避難勧告が出ていたそうだが、別に気にしていなかった。むしろ、印パの緊張のお陰で旅行者が激減したことで、宿代も安くなり、のんびりできるので、それを歓迎していたぐらいだ。もし爆弾が飛んできたら、一緒にジープでネパールまで逃げようと、仲良くなったラダック人と冗談を言っていたが、これも人に言えば、非常識極まりないと怒られるに違いない。

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